福岡地方裁判所 昭和27年(行)18号 判決
原告 長江英雄
被告 大牟田市農業委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告が昭和二十七年六月十六日原告に対してなした農業委員の資格喪失決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十六年七月二十日大牟田市農業委員会委員選挙に当選し、以来同委員として活躍していたものである所、昭和二十七年六月十六日被告は原告に対し、原告の耕地面積は八畝二十九歩にすぎず、農業委員会法第八条所定の被選挙資格がないという理由で原告の農業委員たる資格喪失を決定し、その頃その旨原告に通知した。
然し乍ら原告の耕地面積は次の如く一反を越えているので被告の右決定は違法である。即ち
(1) 大牟田市大字唐船字上段二〇七七番地の一、二、同所二〇七六番地同所二〇八〇番地、同所二〇七八番地の五筆に亘る畑(以下屋敷廻りと略称する)は法敷及び庭園内野菜畑を加え、耕地面積は四畝を下らない。
(2) 同市大字岬字向坂三六八番地、畑一畝十歩は、訴外柿野マツノが訴外西原タキノから賃借して耕作しているものではなく、原告の耕作中のものであり、右柿野マツノは単に原告の手伝をしているにすぎないものであるから、右一畝十歩も原告の耕作面積に加えらるべきである。
(3) 同市大字岬字山開二七一一番地の畑は、被告の原告に対する資格喪失決定中にも原告の耕作地と認めているもので原告の内縁の妻訴外山本ユキ子の所有にかゝり、台帳面積は五畝十五歩であるが実測面積は九畝七歩を下らない。而して右の様に公簿面積と、実測面積とが倍近くも喰違つている場合には右畑の耕地面積を算定するには実測面積によるべきであるに拘らず、軽々に公簿面積によつた違法があり、右畑は九畝七歩と算定さるべきである。
(4) 福岡県三池郡高田村黒崎開字五一番地、同所二五四七番地の一の二筆の田、合計一反一畝二十一歩も昭和二十七年六月から原告がその内縁の妻訴外山本ユキ子と共に耕作しているので右田一反一畝二十一歩も原告の耕作地に加えるべきである。
右の如く原告の耕地面積は一反を遙に越えているにも拘らず、右事実を看過してなされた被告の本決定は違法であるからこれが取消を求めて本訴に及ぶ。と述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告の請求原因事実中原告がその主張の日に大牟田市農業委員会委員に当選したこと、被告が原告主張の日に、主張の如き理由で原告の農業委員たるの資格喪失決定をなし、原告に通知したことは認めるが、原告の耕地面積が一反以上であることは否認する。即ち
(1) 屋敷廻りの畑は、三畝十四歩あることは認めるが原告主張の如く四畝六歩はない。猶法敷七坪九合二勺及び庭園四坪六勺は原告の耕作地とは認めない。
(2) 原告の主張する大牟田市大字岬字向坂三六八番地、畑一畝十歩は現況山林であつて畑ではなく、原告が右向坂三六八番地畑一畝十歩と指示する場所は同所三六〇番地の二、畑一畝二十九歩に相当するが右土地は現在訴外西原タキノの所有にかゝり訴外柿野マツノが右西原タキノに誓書を差入れて賃借耕作して居るものであつて、決して原告の耕作地ではない。
(3) 同市大字山開二七一一番地畑五畝十五歩は、昭和二十二年三月三十一日付第一次農地買収計画により不在地主熊本県阿蘇郡宮地町、森ミツエ及同県玉名郡梅林村大麻タケ子共有分を政府が買収し、同日付でこれを訴外山本ユキ子に売渡した創設農地であり、右山本ユキ子は昭和二十六年頃原告と同居し現にこの畑を耕作中であるが原告とは何ら親族関係はなく、且耕作権を原告に移譲した事実もないから右土地も亦原告の耕作地ではない。
(4) 福岡県三池郡高田村大字黒崎開五一番地及同所二五四七番地の一の二筆の田合計一反一畝二十一歩は右山本ユキ子がその夫である訴外山本孝と福岡地方裁判所大牟田支部で所有権に付繋争中であつた所昭和二十七年六月三日同庁に於ける裁判上の和解により右ユキ子の所有に帰したもので右の和解成立迄は前記山本孝が耕作していたものであるから現在右山本ユキ子の耕作地であつて原告の耕作面積に算入さるべきではなく、仮に現在右二筆の田を原告が耕作しているとしても、それは原告が大牟田市農業委員選挙に立候補し、当選した後に生じた事情であつて同委員たる資格の得喪に何らの影響を及ぼすものではない。
以上の通りであるから原告の耕地面積は屋敷廻り三畝十四歩にすぎず、農業委員会法第八条に規定する一反以上の耕作者に該当しないから原告の農業委員たるの資格を取消した次第であつて右資格喪失決定には何らの違法はないと述べた。(立証省略)
三、理 由
よつて按ずるに、原告が昭和二十六年七月二十日大牟田市農業委員会の委員選挙に当選し、次で昭和二十七年六月十六日被告が原告に対し原告が現に耕作している耕地面積が八畝二十九歩にすぎないことを理由として、農業委員会法第八条に基き原告に被選挙資格なしとして、同人の農業委員たるの資格喪失を決定し、その頃その旨通知したことは当事者間に争がなく、同法条に所謂一反歩以上の農地につき耕作の業務を営む者とは、同委員選挙に立候補当時一反以上の耕作者であることを要し、選挙に立候補当時一反に満たない耕作者が選挙後の耕作関係の変動により一反以上の耕作者になつたとしても右被選挙権の得喪に影響を及さないものと解するを相当とするから、そこで進んで原告が本件農業委員選挙に立候補した昭和二十六年六月当時一反以上の耕作者であつたか否かに付考察すると原告が右委員選挙当時より現在迄訴外山本ユキ子と同居していたことは被告も認める所であるが、証人山本ユキ子の証言、及び原告本人尋問の結果(第二回)及び成立に争のない乙第十一号証によれば、原告には法律上の妻アサ子があつて同人とは昭和二十一年五月頃より別居中であるが、前記山本ユキ子は原告に右の如く戸籍上の妻あることを知り乍ら原告と同居を始めてそのまゝ現在に至つた事情が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。従つて原告と訴外山本ユキ子との同居は公序良俗に反し、何ら法律上の保護に値するものではなく、これを目して戸籍上届出のない夫婦即ち内縁関係と同視することは到底許すことのできない所である。従つて右山本ユキ子を農業委員会法第八条第一項第二号に所謂原告の同居の親族若しくは配偶者と認めることはできないし、且つ同居人が原告にその所有にかゝる農地の耕作権を移転した事実は原告主張立証しない所であるから同人所有の大牟田市大字岬字山開二七一一番地の畑及び福岡県三池郡高田村大字黒崎開五一番地二五四七番地の一の田二筆は原告の耕地より控除すべきものであるから、仮に爾余の点に関する原告の主張を凡て正当としても原告の耕地面積は、屋敷廻り外一ケ所の畑合計五畝十五歩を越ゆることなく、原告は農業委員の被選挙資格を有しないものと謂うの外はない。さすれば結局被告のなした原告の農業委員たるの資格喪失決定は適法であつて原告の請求は理由なきに帰するので失当として、これを棄却し、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 高次三吉 今富滋 裁判官三浦克巳は差支に付署名捺印することができない。 裁判長裁判官 高次三吉)